統括産業医とは?属人化や対応のバラツキを防ぐ「大企業の健康経営の要」を解説 2025/05/30 2025/05/30 産業保健コラム 働き方の多様化・健康経営の本格化で注目される「統括産業医」 コロナ以降、リモートワークや副業制度などで働き方が急速に変化するなか、メンタル不調や長時間労働などの見えにくいリスクへの対応は、今まで以上に難しくなり、現場任せでは限界が出てくるようになりました。 特に大企業では、拠点ごとにルールや運用がバラバラになり、人事部門の管理が複雑化し疲弊しているケースも少なくありません。こうした背景から、全社的な視点で産業保健体制を設計・支援する「統括産業医」への注目が高まっています。本記事では、統括産業医の役割や導入メリット、実際の活用事例までわかりやすく解説します。 この記事でわかること(目次)働き方の多様化・健康経営の本格化で注目される「統括産業医」なぜ今統括産業医が求められているのかー2つの背景働き方の急速な変化健康経営や人的資本経営の観点統括産業医とは統括産業医の特徴統括産業医がフィットしやすい企業とは統括産業医の導入メリットと導入方法統括産業医を導入するメリット導入ステップと活用方法統括産業医を選ぶポイントと成功事例統括産業医を選ぶ際のポイント導入した場合のモデルケースまとめエリクシアでは統括産業医サービスを提供していますすべて表示 なぜ今統括産業医が求められているのかー2つの背景 統括産業医が求められるようになった背景は、大きく分けて2つあります。順に紹介していきます。 働き方の急速な変化 冒頭にも述べた通り、コロナショック以降、企業での働き方は急速に多様化しました。特に大企業ではリモートワーク、ハイブリッドワーク、副業・兼業の容認、より柔軟なフレックスタイム制度の導入などほかにも様々あります。従業員にとっては働き方の選択肢が増え、より自由度が増すなどメリットが大きい一方で、企業側の視点になると、上司でさえ部下の状態を把握しづらくなり、不調の早期発見が難しくなるなどの課題も出ています。このように働き方の多様化によってメンタルヘルス不調や長時間労働などの兆候を早期に見つけることは難しくなり、取り返しがつかない状態になってから表面化することもあります。 健康経営や人的資本経営の観点 従業員が健やかに働くことは、企業の生産性やサービスの向上、組織風土にも好影響を与えます。大企業では、経済産業省の「健康経営優良法人認定制度」や「健康経営銘柄」、上場企業を中心に人的資本に関する情報開示が求められるようになり、定量的な健康データの整備と公開が企業価値の重要な指標にもされています。 従来、産業保健は人事労務の枠の中でしたが、このように今では働き方の多様化への対応や企業価値の向上の視点から、従来の枠を超えて「経営戦略上のインフラ」の役割を担い、企業全体で考慮すべき課題になりました。特に大企業では全社的かつ専門的な設計・運用が求められています。それらをリードし支えていくのが統括産業医です。 統括産業医とは 統括産業医には労働安全衛生法上の定義や配置義務はありませんが、企業が自主的に配置し、全社的な産業保健体制の統括や調整を担う立場にいて、拠点産業医の活動支援や衛生委員会の統合的な設計にも関与します。 統括産業医の特徴 統括産業医は、単に複数拠点を兼務する嘱託産業医とは異なり、企業全体の産業保健体制の設計や標準化、制度整備を担う戦略的なポジションです。特に本社人事や経営層と連携し、全社的な健康リスクの管理や制度設計、対応の平準化に貢献します。 大企業においては、各拠点に専属産業医を配置しているケースもあります。専属産業医とは、労働安全衛生法第13条に基づき、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場、または特定の有害業務(安衛則第13条第1項第2号)に500人以上の労働者を従事させる事業場において、嘱託ではなく専属(=当該事業場のみに常勤)で配置が義務づけられている産業医です。専属産業医はその拠点に常駐し、日常的な職場巡視、長時間労働者との面談、衛生委員会出席などの実務を担います。 一方で、統括産業医は法的に義務付けられた制度ではありませんが、全社的な衛生管理の質を高めるために、企業が任意で設ける体制です。専属産業医が拠点単位の実務を担うのに対し、統括産業医は企業全体の産業保健活動を統合・調整する役割を持ちます。 たとえば、複数の専属産業医や嘱託産業医が拠点に配置されている場合でも、統括産業医が不在であれば、対応方針が拠点ごとにバラつき、グレーゾーン事案への判断も属人的になりがちです。統括産業医が全体設計と方針決定を担うことで、現場での対応品質を底上げし、全社としての産業保健体制の一貫性を保つことが可能になります。 ✅嘱託産業医・専属産業医・統括産業医の比較 区分嘱託産業医専属産業医統括産業医法的義務労働者50人以上の事業場に配置義務あり常時労働者1,000人以上の事業場に配置義務あり※義務なし(企業が任意設置)雇用形態非常勤(週1回など)常勤(その事業場専属)任意(常勤・非常勤問わず)担当範囲特定の1事業場特定の1事業場全社・複数拠点を横断主な役割実務対応(面談、職場巡視など)実務対応(面談、職場巡視など)全社方針策定、対応の標準化、現場支援設置目的法令遵守法令遵守全社最適化、対応品質向上対象企業50人以上の拠点を持つ企業1,000人以上の拠点を持つ企業拠点数が多い、課題の複雑な中堅〜大企業 ※常時1000人以上の労働者を使用する事業場および一定の有害業務(安衛則第13条第1項第2号に定める業務)に常時500人以上の労働者を従事させる事業場においては、専属産業医の選任が義務付けられています。 統括産業医がフィットしやすい企業とは 大企業など、50人以上の事業場が多数ある場合は統括産業医が活躍しますが、特に以下のような課題がある企業ではおすすめです。 ・拠点や部署ごとに衛生管理体制が異なり、対応にばらつきがある・メンタルヘルス不調対応や離職への人員補充、人間関係の問題で人事や現場が疲弊している・労基署の是正勧告をきっかけに、対応体制そのものを見直したい・属人的な対応ではなく、仕組として整備・継続できる体制にしたい など このような状況で統括産業医は衛生管理体制の設計や運用支援を行い、組織的・継続的な改善を支える存在になります。 統括産業医の導入メリットと導入方法 統括産業医に求められる企業に当てはまっているものの、現在統括産業医がいない、もしくは統括産業医がいても課題に対応しきれていないケースがあります。この章では、統括産業医の導入メリットと導入方法について述べていきます。統括産業医の活用方法のイメージを深めてみてください。 統括産業医を導入するメリット 統括産業医を導入した場合、下記のようなメリットがあります。 1全社的な衛生管理体制の最適化 拠点間の基準のばらつきをなくして標準化を行い、会社全体として整合性のある対応が可能になります。統括産業医によっては衛生管理の運用支援やマニュアル・ルールの統一などを行い組織全体のガバナンス向上へ貢献します。 2人事・衛生管理者の負担軽減 休職・復職や精神疾患対応等の中で、複雑なケースは統括産業医が主導して関与します。統括産業医が一度対応し、対応方針やルールを定めることで同じようなケースが起きた時の混乱を防ぎ、現場の負担を軽減します。 3法令順守体制の支援と監査対応の強化 統括産業医が全社的なルール整備や対応基準の標準化を支援することで、法令に沿った運用がしやすくなり、労働基準監督署の調査や外部監査が入った場合も、迅速かつ正確な対応に貢献します。 4健康データの整備と蓄積 ストレスチェックや面談記録のデータのレポート範囲等も統一しデータを活用することで人的資本や経営レポートへの反映が可能になります。 導入ステップと活用方法 続いて実際の導入ステップと活用方法について見ていきます。ただし、統括産業医によって内容は変わりますのであくまで一例として参考にしてください。 1.現状の見える化と課題の整理 全拠点の産業保健体制の整備や安全衛生活動を洗い出して、リスクや課題を可視化します。 2.全社的な方針とガイドラインの策定 個別対応に頼らず、全社共通の衛生管理の対応方針やマニュアル、手順書を整備します。 3.現場・人事との連携体制の構築 拠点産業医や人事との定期的な連携や報告対象案件についてのルールを整備。相談・判断のプロセスを標準化します。 4.実務支援フェーズ 休職・復職、メンタルヘルス対応など、現場の対応に実務的に関与して支援します。 5.経営層との情報連携 産業保健に関する面談記録や健康データを整備し蓄積。人事部門が作成する人的資本や健康経営関連の報告書に必要なデータ整備や情報収集の支援を行い、報告内容の補強に貢献します。さらに人事や経営層との連携を通じて、現場の健康リスクや課題を経営判断に反映させる橋渡し的な役割をします。 統括産業医を選ぶポイントと成功事例 統括産業医についての仕事内容のイメージを深まったところで、実際に選ぶ時のポイントと導入で成功した事例を見ていきましょう。 統括産業医を選ぶ際のポイント 統括産業医の選定には、専門性や支援体制の質を見極めることが重要です。以下の観点から信頼できるパートナーかどうかを判断することができます。 ・統括産業医としての支援実績が豊富であるか・拠点間の連携体制の構築に慣れているか・人事・経営層とのコミュニケーション力に長けているか・衛生管理体制の文書化や標準化スキルを持っているか そのほかにも、業界・業種・職種への理解など、自社の産業保健管理のゴールに合わせて、ポイントを洗い出し、優先順位をつけて判断することをお勧めします。 統括産業医はアドバイザーではなく、課題解決を実行支援できるパートナーであることが大事です。 導入した場合のモデルケース 以下は、公的資料で示されている課題傾向や施策事例と実際の現場で見られる典型的な対応パターンをもとに再構成してモデルケースにしました。課題解決の参考例としてご覧ください。 ・大手IT企業のモデルケースBefore:拠点ごとに休職・復職の対応ルールが異なっており、人事担当者の間で混乱が生じていた。After:統括産業医を導入し、全社共通のガイドラインを整備。スムーズな休職・復職支援が可能になり、人事担当者の業務負担も大幅に軽減された。 ・製造業の大手企業の事例Before:労働基準監督署から過重労働に関する是正勧告を受けた。After:統括産業医が中心となって労働時間の見直しや面談体制の整備を推進。半年後の再調査では是正項目がすべて解消された。 ・金融業の大手企業Before:人的資本開示と健康経営銘柄の取得を目指していたが、データ整備が不十分だった。After:統括産業医がストレスチェックの結果や面談記録を集約・分析し、経営層向けへのレポート体制を構築。開示基盤の強化につながった。 ※モデルケース作成参考資料厚生労働省「職場におけるこころの健康づくり」関連資料独立行政法人労働政策研究・研修機構報告書経済産業省「健康経営の推進」資料 まとめ 統括産業医は単なる「産業医たちの上位的存在」ではありません。企業全体の産業保健体制を経営視点で把握し整えるための戦略パートナーと言えます。産業保健の属人化や対応のばらつきに課題を感じている企業や人的資本開示や健康経営に真剣に取り組みたい企業にとって統括産業医の導入は極めて有効な施策になります。ぜひ、統括産業医を活用して、企業全体の産業保健体制の品質向上に役立てましょう。 エリクシアでは統括産業医サービスを提供しています エリクシアの統括産業医は ・本社主導の衛生管理体制づくりを支援する経験豊富な産業医・貴社の課題や運用状況に合わせて柔軟に伴走 など 「産業医のとりまとめの存在」にとどまらない戦略的な統括産業医としてのスキルや経験が備わった医師が貴社の課題解決をサポートします。 属人的・個別対応に限界を感じている方、経営視点での産業保健体制の再構築を検討されている場合はぜひ、一度ご相談ください。 東京本社を中心に、オンラインによる全国対応も可能です。 ご相談はこちらからお気軽にどうぞ
健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 2024.2.26 産業医の選任/役割
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