健康診断を受けっぱなしにしていませんか?企業と産業医に求められる対応

健康診断の「受けっぱなし」はリスク大!会社が行う対応について

事業者は労働安全衛生法第66条に基づいて、労働者に対して医師による健康診断を実施しなければなりません。健康診断を実施すれば会社の義務は果たしていると考え、実施するだけで終わっていないでしょうか?健康診断実施後、何もせずそのままにしておくことは、会社にとって法的リスクが大きい行為です。健康状態が良くない従業員を放置しておくことは、安全配慮の観点から考えても望ましくなく、また、生産性の低下により経営に悪影響を及ぼすことも考えられます。健康診断を実施するだけでなく実施後の対応まで適切に行っていきましょう。

健康診断管理に関する課題はエリクシアで解決!
この記事でわかること(目次)
  • 健康診断の「受けっぱなし」はリスク大!会社が行う対応について
  • 健康診断実施でよくあるNG行動
  • 受けっぱなしにならない!健診実施後にやること
  • まとめ
  • 健康診断管理に関する課題はエリクシアで解決!
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    健康診断実施でよくあるNG行動

    会社が健康診断を実施する中で、よく見られるNG行動が3つあります。いずれかの行動に心当たりがある場合は、会社としての対応について確認しましょう。

    NG1 健康診断を受けたがらない社員を放置

    健康診断を受けたがらない社員がいたり、受けていない社員をそのままにしていませんか?会社は従業員に対して定期健康診断を行う義務があり、従業員も会社が行う定期健康診断を受診する義務があります(労働安全衛生法第66条第5項)。また、会社には安全配慮義務があり、定期健康診断の実施は安全配慮義務の一つです。

    そのため、健康診断を受けたがらない社員を放置することは、社員に何らかの健康上の問題が生じた場合や健康状態に起因して何らかの事故が生じた場合、労働安全衛生違反となるだけではなく、安全配慮義務違反として大きな責任を問われるリスクがあります。

    どう対応する?

    まずは、「なぜ健康診断を受けたくないのか理由を把握し、受診できる体制を整えていく必要があります。多忙な業務や出張等によって受診できない場合には、日程を調整して受診してもらうなど、細かな対応が求められます。なお、個人的な理由で健康診断を拒否する従業員には、「健康診断の受診は労働者の義務であり、会社の業務命令であると伝える必要があります。それでも拒否される場合には、業務上の不利益が生じる可能性や、重大な事故につながる可能性があっても全て自己責任であるということを伝えましょう。場合によっては、自己判断で受診しなかったことを書面で取り交わすことの検討をする必要の可能性あります。しかし、それらの対応を行ったとしても、社員に万が一のことがあった場合には、会社責任を全く問われないというわけではありません。会社としては健康診断を確実に受診するよう、粘り強く説得を続けることが重要と考えます。

    NG2 健康診断実施後、結果を回収しきれていない

    健康診断結果の控えを従業員から提出してもらう場合、スムーズに健康診断の結果が回収されないといったことはありませんか?従業員としては「プライバシーに関わるものだから会社に知らせたくない。」といった理由があるのかもしれません。

    では、会社は従業員の健康診断の結果をどの程度把握してよいのでしょうか?

    まず、労働者の義務として、「健康診断を受けなければならない」とされていますが、同時に、「事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない(労働安全衛生法第66条第5項)とされていることから、労働安全衛生法に基づく健康診断の結果は、労働者の個人情報ではありますが、本人への通知(提出)が事業者に義務付けられています。がん検診の項目などのようにオプションで受ける法定外項目についてはプライバシーの保護を理由に会社への提出を拒否できますが、法定項目については拒否することはできないのです。

    どう対応する?

    一般定期健康診断の結果の提出を拒否する従業員には、それを認めてしまうと会社側の「安全配慮義務」を果たせなくなるため、その理由を伝えて提出を促しましょう。 また、従業員がプライバシーの心配をする理由としては、健康診断の結果を会社がどのように扱うのか不安に思っていることが考えられます。 就業規則や社内規程をもとに健康情報取扱規程を作成し、従業員の健康情報をどのように扱うかをきちんと明記して周知することで、従業員が安心して健康診断の結果を提出できる環境を作ることも大切です。もしオプションで受ける法定外項目について、会社に結果を見せたくない等の相談がある場合には、法定外項目を塗りつぶしてから提出してもらうようにします。

    定期健康診断については、こちらの記事で解説しています。
    定期健康診断で会社が行う7つのこととは?定期健康診断を徹底解説!

    NG3 健康診断実施後、何もせず保管しているだけ

    健康診断を実施した後、従業員から健診結果を回収したら保管して終わっていないでしょうか? 労働と健康を両立させるためには、事業者が労働者の健康状態を把握し、その結果に基づき適切な管理を行うことが不可欠です。当然、ただ、事業者側で労働者の健康状態の把握から適切な管理までを完結させることは難しいため、そこで出てくるのが「産業医」となります。

    では、会社は健康診断実施後、何をしなければならないのでしょうか。また産業医はどのようにかかわってくるのでしょうか。次の章で詳しく解説していきます。

    受けっぱなしにならない!健診実施後にやること

    健康診断実施後に企業と産業医が行うことについて確認していきましょう。企業が健康診断を実施するうえで、産業医との連携は欠かせません。健康診断実施後、何もせず保管するだけ、とならないためにも、健康診断における企業と産業医の役割を見ていきましょう。

    企業の役割 5ステップ

    1 結果を回収

    健康診断の結果の回収について労働安全衛生法第66条第6項では、健康診断の結果を労働者に通知しなければならないとされています。つまり法律では、医療機関から会社が健康診断の結果を受け取り、従業員に通知することが前提となっているのです。しかし実際には従業員が健診を受けた医療機関から健康診断の結果を受け取り、従業員から会社へ提出する形をとることが多いようです。なお、会社は健康診断の結果票を5年間保管することが義務付けられています(労働安全衛生規則第51条)。

    2 結果を医師に判定してもらう

    健康診断の結果、異常所見がある社員について、就業上の措置について3か月以内に医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生規則第51条の2の1)。意見を聴く医師は、産業医の選任義務のある企業であれば、職場の産業医が行います。産業医の選任義務のない職場の場合は、地域産業保健センターの相談窓口などを活用しましょう。

    3 受診促し

    健康診断後の再受診については、受診勧奨までが会社の努力義務とされています。そのため、再度受診が必要だと医師が判断した従業員に対して会社は受診勧奨を行います。ただし、再受診については従業員の判断に委ねられています。ただ、会社には労働者が安全で健康に働くことができるように配慮する安全配慮義務があります。このまま働かせると危ない健康状態の従業員については、必ず受診をしてもらい、その結果を提出するよう働きかける必要があります。

    4 必要な従業員に就業措置を行う

    健康診断の結果、異常所見があると診断された従業員について、事業者は医師から聴取した意見を勘案し、その必要があると認めるときは、従業員の事情を考慮して残業禁止や出張の制限、就業場所の変更などの措置を行います。(労働安全衛生法第66条の4、5)。

    ※健康診断の対象者については、下記の記事で解説しています。
    企業で実施する健康診断 誰にどれを受けさせる?何に注意すべき?

    5 定期健康診断結果報告書を作成・提出

    常時50人以上の従業員がいる会社では、定期健康診断結果報告書を作成する必要があります。法律上、保管期間の明確な定めはありませんが、定期健康診断の結果票とともに5年間保管するとよいでしょう。

    産業医がやること 5ステップ

    ①健診結果の確認

    産業医は会社が回収した健康診断の結果を3か月以内に確認しなければなりません(労働安全衛生規則第51条の2の1)。健康診断の結果を確認する際に、医療判定就業判定の2つの判定を行います。

    医療判定
    病院を受診する必要がある異常所見が無いか判定します。
    就業判定
    健康診断の結果をもとに働くことができる健康状態かどうか判定します。

    この時就業区分は以下の3つに判定されます。
    ・通常勤務
    ・就業制限(条件付きで勤務可能)
    ・要休業(休業が必要)

    通常勤務は文字通り、通常の勤務で良いということです。

    就業制限働くことはできるものの勤務を制限する必要があるということで、残業禁止や出張の制限、就業場所の変更など、勤務による負荷を軽減するための措置が必要な状態です。

    要休業は、健康状態が悪くこのまま働かせると危ないため、勤務を休む必要があるということです。療養のための休暇や休職などの措置を行います。

    ②異常所見に対して意見書を出す

    産業医の医療判定の結果、「異常所見あり」となった従業員に対しては、再度受診を促す意見書を出します。異常所見のあった従業員の中でも、このまま働かせると危ないと判断された従業員については、すぐに休業などの措置を行うことが難しい場合は、速やかな受診を促し、その間は一旦就業判定は保留とします。

    ③最終判定を行う

    意見書が発行され、医療機関を受診した従業員から異常所見のあった項目の結果を自己申告してもらいます。その結果をもとに、産業医は判定を保留していた従業員の最終的な就業判定を行います。

    ④定期健康診断結果報告書を確認、署名・捺印

    会社側が作成した健康診断結果報告書の産業医欄に産業医が署名して所轄の労基署へ届け出る必要があります。なお、法改正により令和2年(2020年)の8月からこれまで必要だった産業医の押印(電子申請する場合は電子署名)が不要になり、氏名の記入だけで良くなりました。

    参照 リーフレット(健康診断個人票や定期健康診断結果報告書等について、医師等の押印等が不要となります) 

    産業医の主な仕事内容はこちらの記事で解説しています!
    産業医とは?産業医の役割と8つの仕事内容

    ⑤保健指導

    健康診断の結果、「特に健康の保持に努める必要がある」と医師が判断した労働者には医師、保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません(労働安全衛生法第66条の7)。

    まとめ

    健康診断は会社義務の1つです。健康診断実施から実施後の流れを整備し、産業医と連携して従業員の健康管理に取り組む必要があります。従業員が健康であれば会社のパフォーマンスも上がるため、適切に健康診断を行い、労働と健康の両立を目指しましょう。

    健康診断管理に関する課題はエリクシアで解決!

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    ※お問い合わせ内容や地域によってはご希望に添えない可能性がございます。 あらかじめご了承ください。 ※産業医提供事業者の方は問い合わせをご遠慮ください。

    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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