5つの視点で考える産業医の役割と主治医の違い

産業医の役割は主治医とどう違う?

産業医とは、事業場における労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導や助言を行う医師の事を言います。「医師」であることから、初めて産業医を選任する会社にとっては、病院やクリニックにいる医師と、産業医の役割がどう違うのか疑問を持つことがあるかもしれません。産業医の役割を理解していきましょう。

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この記事でわかること(目次)
  • 産業医の役割は主治医とどう違う?
  • 産業医とは
  • 5つの視点で考える、産業医と主治医の違い
  • 主治医と産業医の立場の違いが出やすい「復職判定」
  • まとめ
  • 初めての産業医導入に関する課題はエリクシアで解決!
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    産業医とは

    産業医とは、事業場における労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導や助言を行う医師です。会社にとって「健康管理のアドバイザー」と考えるとわかりやすいです。

    産業医の役割は、病院の医師のように診察や治療を行うことではありません。産業医は事業場における労働者の健康の保持、増進に努め、衛生管理者とともに職場環境管理を行い、労働と健康の両立のために、専門的な立場から指導・助言をすることを任務としています。つまり従業員の心身の健康状態や労働衛生を把握した上で会社に「こうしておいた方がいいよ」と助言する存在です。会社と従業員の間に立って、本人の健康状態や職場状況から、一番いい方法を模索する役割で、言うならば第三者視点で業務を行う「コンサルタント」といえるでしょう。

    近年は、労働者の健康を守る3大管理(健康管理・作業管理・作業環境管理)の中でも、健康管理の分野で産業医に期待される役割が増しています。一般的な労働災害を予防する活動だけではなく、メンタルヘルス問題や、過重労働管理など、リスクマネジメントやコンプライアンスの観点で産業医の意見が求められることが多くなりました。健康経営に代表されるように、会社の生産性向上のためには従業員の健康は欠かせません。そのため、専門的な立場から従業員の健康や職場環境を見ることができる産業医の存在はとても重要となっています。

    産業医の要件

    産業医は、医師であれば誰でもなれるわけではありません。産業医の要件は、労働安全衛生法第13条第2項に基づき、「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者」と定められています。この要件は、労働安全衛生規則第14条第2項に以下の通りに定められています。

    (1)厚生労働大臣が定める産業医研修の修了者。これに該当する研修会は日本医師会認定の産業医学基礎研修と産業医科大学の産業医学基礎講座があります。
    (2)労働衛生コンサルタント試験(試験区分保健衛生)に合格した者。
    (3)大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者。
    (4)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を収めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者。

    以上の条件を満たす医師が、産業医として活動することができます。

    近年職場でのメンタルヘルスが重要視されてきていることから、産業医=精神科や心療内科の医師というイメージを持たれている人もいるかもしれません。労働安全衛生規則第14条第2項に定められている要件を備えている医師であれば、精神科、内科、外科等問わず、産業医として活動することができます。また、医療機関における診察や治療と産業医としての活動は全く異なります。そのため、精神科や心療内科の医師でなくとも、職場におけるメンタルヘルスに十分な知識と経験を備えている産業医であれば問題なく対応を行うことができます。

    産業医の役割とは?

    産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項で9つに分類されています。

    ①健康診断の実施とその結果に基づく措置に関すること
    ②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置に関すること
    ③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導とその結果に基づく措置に関すること
    ④作業環境の維持管理に関すること
    ⑤作業管理に関すること
    ⑥上記以外の労働者の健康管理に関すること
    ⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置に関すること
    ⑧衛生教育に関すること
    ⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置に関すること

    これらの職務に加え、月に1回の職場巡視や衛生委員会への参加長時間労働者に関する情報の把握を行います。

    2019年4月の働き方改革関連法により、産業医・産業保健機能の強化が求められ、産業医への権限・情報提供の強化が定められました。それに伴い、会社は産業医に対し、健康診断に関する情報、メンタル不調者に関する情報、長時間労働者に関する情報等、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うための情報の提供が義務付けられています。産業医は労働環境の実態を知ることで、より適切な健康管理等を行うことができますので、会社として産業医に提供すべき情報は整理しておくとよいでしょう。

    参考:厚生労働省「産業医について」

    産業医の役割や仕事内容についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
    産業医とは?産業医の役割と8つの仕事内容ーエリクシア産業保健コラム

    5つの視点で考える、産業医と主治医の違い

    メンタル不調者対応を行っている担当者からすると、産業医や労働者の主治医、複数の関係者などから情報共有がなされる中で、産業医と主治医の違いが分からないという声も多く聞きます。産業医・主治医の違いをおさえておきましょう。

    産業医と主治医の違い_エリクシア産業医
    ※注:産業医の医療行為について
    診療所を併設している事業場では、産業医が医療行為を行う場合もあります

    ①法律

    主治医の業務が医師法、健康保険法などで定められているのに対し、産業医の業務は労働安全衛生法ならびに労働安全衛生規則によって定められています。

    ②対象者

    主治医が対象とするのは、疾患を持っている人や医療機関を受診する「患者」です。一方で産業医は、健康な労働者から心身に不調がある労働者まで、事業場で働く「労働者」を対象としています。

    ③活動場所

    主治医は病院やクリニックで活動します。一方、産業医は労働者を対象としているため、その活動場所は事業場です。専属の産業医は事業場に常駐しており、嘱託(非常勤)の産業医は月に1回以上事業場を訪問します。

    ④診療の有無

    主治医は診察や検査、治療や処方などの診療を行いますが産業医はどうでしょうか。結論としては、産業医は医療行為を行いません。会社によってはストレスチェックや健康診断を産業医に相談しながら運営するため、産業医が診察や治療、時には診断書も書いてくれると思ってしまうケースもあるようです。つまり、主治医が医療行為を行うのに対し、産業医の職務は、事業場やそこで働く労働者に対して、健康診断結果や面談に基づき、望ましい対応を本人や会社へ指導し、健康の保持・増進を目的としたアドバイスを行うこと。また、職場巡視・衛生教育を通じて全社的な衛生管理体制が推進されるよう専門的立場でサポートを行うことです。

    ⑤事業主への勧告権の有無

    産業医は事業主に対する勧告権を持っています。一方で主治医には、事業主に対する勧告権はありません。勧告とは、労働者の健康・安全を確保するために緊急性が高い場合労働者に対する必要な措置を事業主に指示することです。勧告はプロセスがあり、基本的には指導・助言を行っても改善されない事案や、緊急性が高く即時に事業主に指示が必要な場合に発生します。(なお、産業医は勧告しようとするときは、予めその内容について事業主の意見を求めることとされています)

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    主治医と産業医の立場の違いが出やすい「復職判定」

    では実際には、どのような場面で産業医と主治医の違いが出てくるのでしょうか。よくあるケースは、メンタル不調によって休職していた従業員が復職する際です。

    休職の場合、「休職を必要とする」といった内容の主治医の診断書が従業員から提出されると、特別な指定がなされてない限り、会社は原則翌日から速やかに休職させなければなりません。そのため、休職の際には主治医の意見となる「診断書」に従う必要があります。一方で、復職の際は少し複雑です。

    主治医が復職可能とする診断書を出しても、産業医はもう少し休職が必要と判断することがあり、産業医と主治医の立場の違いから、同じ従業員に対する意見が異なるということが起こります。同様に、主治医の意見と、会社から見た本人の状態に違和感が生じることも起こります。

    復職判定から考える、主治医と産業医の視点の違い

    主治医の視点

    主治医は治療を専門としており、患者の医療方針について責任を持つ立場にあります。つまり、患者の病態が安定しているかどうか、日常生活が送れるかどうかを基準に判断します。そのため従業員が日常生活を送れるようになってくると、復職可能とする診断書を出すことが多くあります。

    産業医の視点

    一方で、産業医は労働者が勤務できる状態であるかを判断する立場にあります。つまり、従業員が労働契約上で定められている1日の所定労働時間勤務が行えるかどうかを基準に判断します。また、再発のリスクがないか等も面談を通じて確認します。見ている視点が異なるというのがポイントです。

    もし主治医と産業医の意見が食い違ったら会社として対応する?

    主治医と産業医の意見が食い違う場合、会社としてどのように判断をすればよいのか悩むこともあるかもしれません。その際には、以下2点をポイントに考えます。

    ポイント1 会社が判断をする

    復職判定において、最終判断を行うのは会社です。主治医や産業医の意見を参考にしながら、本人の状態と就労の可能性を確認してから判断を行います。基本的には、労働契約上で定められている1日の所定労働時間勤務が行えるレベルで体調や生活リズムが回復していること、本人に就業意欲があること、その他再発リスクや復職後の配慮等について総合的に判断したうえで会社が最終判断を行います。

    ポイント2 産業医と主治医の意見が異なったら診療情報提供書を活用

    専門家同士の意見が食い違い判断に困る際には、「診療情報提供書」を産業医に記載してもらい、会社から主治医に提出することがあります。診療情報提供は簡単に言うと、会社(産業医)から主治医への手紙です。産業医の意見を記載したうえで、主治医へ意見を改めてお伺いし、意見のすり合わせを行うことが目的となります。

    主治医は、日常生活が送れるかどうかを基準に診断書を出していますが、経済的不安などを理由に、早期復職を希望する従業員は少なくありません。日常生活が送れるようになり、従業員が「復職したい。復職できる。」と主治医に申告すると、復職可能とする診断書がでてきてしまうことも当然起こりえます。この状態で復職してしまうと再発のリスクが高くなり、休職と復職を繰り返してしまうと従業員の社会復帰を難しくさせてしまいます

    会社は、再発予防の観点から主治医の診断書のみで判断をせず、主治医・産業医双方の意見をもとに最終判断を行うことが重要です。

    復職判定についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
    「復職可」の診断書が出たら復職OK?復職判定は誰がする?復職対応の基本ーエリクシア産業保健コラム

    まとめ

    産業医は、会社の状況や業務内容などを把握したうえで労働と健康の両立について医学的な視点をもってアドバイスをする存在です。従業員が一定の人数を超えてくると、全員が心身健康で問題がないという職場はありません。必ず一定の割合で健康に関連した問題は発生します。その際には、会社・産業医・主治医の役割を改めて認識し、専門家の意見を上手に活用して従業員が生き生きと活躍できる体制を整えましょう。

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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