パワハラ防止法とは?会社ですべき7つのこと

パワハラ防止法とは?

中小企業でもパワハラ防止措置の義務化スタート

近年、ハラスメントに関する「パワハラ」「セクハラ」「マタハラ」「カスハラ」などの言葉が世の中に広まり、ニュースでも取り上げられるなど社会的な問題として、より関心が高まってきています。ハラスメント問題は、どの会社でも起こる可能性があり、決して他人ごとではありません。また、SNSなどの普及により誰でも簡単に情報を発信できる時代になり、ハラスメント問題に対する世間の目は一層厳しくなってきています。そのような状況の中、法整備も進み、労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法)により、会社で「パワハラ防止措置」を講ずることが義務となりました。これまでは大企業のみが義務の対象でしたが、令和4年4月1日からは中小企業でも義務化されています。

しかし、「パワハラ防止措置」といっても、具体的に会社で何をすればいいのか、よく分からないという方もいるかもしれません。また、すでに対処している方も「これで大丈夫か?」と疑問をお持ちの方もいることでしょう。本記事では、パワハラ防止法の基礎的な内容や、会社が具体的にどのような対応をすればよいのかをわかりやすく説明していきます。

この記事でわかること(目次)
  • 中小企業でもパワハラ防止措置の義務化スタート
  • 他人ごとではない!パワハラとは?
  • パワハラ防止法 会社でやるべき7つのこと
  • まとめ
  • 職場のハラスメント防止には、エリクシアの「ハラスメント研修」
  • すべて表示 

    他人ごとではない!パワハラとは?

    東京都労働相談情報センターには毎年およそ5万件の労働相談が寄せられています。令和3年度の労働相談数は45,504件でした。寄せられた労働相談の中で毎年上位に挙がる「職場の嫌がらせ」は、令和3年度は10.9%で最多となりました。

    職場において、パワハラは誰でも被害者と加害者のどっちにもなってしまう可能性があります。パワハラについて正しい知識を持つことはパワハラの防止や事後の対応を検討するうえで重要です。どんな行為がパワハラにあたるのか、定義や種類をしっかりと把握しておきましょう。

    パワハラの定義をおさらい

    まずは、どんな行為がパワハラに該当するのか、定義について確認していきましょう。パワハラは下記①~③全ての要素を満たす行為です。

    ①優越的な関係を背景とした言動
     例)
    ・職務上の地位が上位の者による言動(上司-部下)
    ・同僚や部下であっても、業務をする上でその人の協力を得られないと円滑な遂行ができないもの
    ・同僚や部下からの集団による行為で、抵抗や拒絶が難しいもの

    ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
     例)
    ・業務上明らかに必要性のない言動
    ・業務の目的を大きく逸脱した言動
    ・行為の回数や行為者の人数、手段が社会通念に照らして許容される範囲を超えた言動

    ③労働者の就業環境が害される
     例)
    ・身体的または精神的に苦痛を与えられ、就業環境が害され、能力の発揮に悪影響が生じるもの
    ※判断の視点としては、「同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で支障が生じたと感じるような言動であるかどうか」を基準とすることが適当とされています。

    また、パワハラは、上司から部下に行われるものと認識されがちですが、上記①~③の要素を満たす場合、同僚間や部下から上司による言動もパワハラに該当します。

    引用元:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」

    職場における6つのパワハラ

    続いて、職場におけるパワハラの類型を確認していきます。一般的に、パワハラといえば、暴行・暴言などが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思いますが、それだけではありません。精神的な攻撃や、人間関係の切り離しなど、様々な状況が想定されます。早速、代表的なパワハラである6つの類型を確認しましょう。

    ■職場におけるパワハラの6つの類型
    ・身体的な攻撃
    ・精神的な攻撃
    ・人間関係からの切り離し
    ・過大な要求
    ・過小な要求
    ・個の侵害

    見慣れない言葉もあるかもしれません。イメージとともに図にまとめましたので、ご覧ください。

    職場におけるパワハラ6つの類型ー産業医のエリクシア

    パワハラが及ぼす悪影響‐被害者、加害者、会社全体

    パワハラは被害者個人の尊厳や名誉、プライバシーなどを不当に傷つけるだけでなく、心身の健康状態を害することや、個人の有効な能力発揮の機会を奪うことにつながります。加害者にとっても悪影響があります。被害者からの損害賠償請求や刑事責任を問われ重大な法的責任を負う可能性、職場の他の労働者や事業主からの信頼を失い、懲戒処分や配置転換、場合によっては仕事を失うことも考えられます。

    また、被害者と加害者といった当事者だけでなく、他の労働者や会社全体にも悪影響を及ぼしかねません。会社は、職場全体の勤労意識や風紀の低下、生産性の低下、訴訟への発展などによる企業イメージの悪化、損害賠償による金銭的喪失も考えられます。パワハラの慰謝料の相場は、事案にもよりますが、およそ50~150万円と言われています。もし被害者が自殺に至ってしまった場合などは、さらに高額となり数千万円の賠償の支払いが命じられたケースもあります。このようにパワハラは、加害者はもちろん、加害者を雇用している会社も責任を負う可能性があります。したがって、会社にとってパワハラへの取り組みは急務であると言えます。

    法律では、令和2年6月1日にパワハラ防止法が施行されたことで、会社にパワハラを防止する対策を講じる義務が課されました。中小企業は令和3年3月31日までは努力義務で、大企業のみ義務となっていましたが、令和4年4月1日からは中小企業でも義務化されています。

    パワハラ防止法 会社でやるべき7つのこと

    ここまで、パワハラの定義や類型、パワハラが及ぼす悪影響について確認してきました。パワハラ対策は会社にとって早急に取り組むべき課題であると言えるでしょう。会社は具体的に何を行う必要があるのか、詳しく解説していきます。

    パワハラ防止法とは?

    パワハラの防止に関する規定は、令和元年5月に行われた労働施策総合推進法の改正によって新設されました(以後、パワハラ防止法と呼ばれています)。この改正によって、令和2年6月1日以降、事業主には職場におけるいじめ・嫌がらせを防止するためのパワハラ対策を講じることが義務づけられました。はじめは大企業のみで義務化となり、中小企業は努力義務でしたが、令和4年4月1日からは中小企業でも義務化がスタートしています。

    パワハラ対策の対象は正規雇用の社員のみならず、パートタイム労働者、契約社員など非正規雇用労働者を含む事業主が雇用する全ての労働者です。派遣社員については、派遣元と派遣先双方に義務が発生します。もし、対策を講じず放置していた場合、パワハラ防止法では罰則規定はありませんが、事業主には安全配慮義務があるため、厚労省から指導や勧告を受ける可能性があります。

    会社ですべき7つの対応

    パワハラ防止法により定められている会社の対応としては、大きく絶対にやるべき4つの『義務』と、やることが望ましい3つの『努力義務』があります。

    ■会社ですべき7つの対応
    -義務-
    1.事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
    2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
    3.職場におけるパワハラへの事後の迅速で適切な対応
    4.併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止など
    -努力義務-
    5.各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備
    6.ハラスメントの要因を解消するための取り組み
    7.その他の取り組み

    それぞれ内容を確認していきましょう。

    義務

    1.事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

    ①ハラスメントの内容、方針等を明確化し、労働者に周知・啓発
    社内報、パンフレット、社内ホームページなどの広報又は啓発のための資料等にハラスメントの内容及びハラスメント発生の原因や背景、事業主の「ハラスメントは許しません!」といった方針を記載します。その他、労働者に対するハラスメントに関する研修や講習の実施も検討しましょう。

    ②パワハラをした人には厳正に対処する方針や対処の内容について就業規則に定める
    就業規則や、その他の職場における服務規律等を定めた文書に、ハラスメントに係る言動を行った者に対する懲戒規定を定め、その内容を労働者に周知します。

    2.相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

    ①パワハラが疑われる場合の相談窓口を設置し、労働者に周知する
    設置後は、相談窓口の役割や連絡先、プライバシー保護に留意することを労働者に周知します。ただ、厚労省の調査では相談窓口を利用したことのある割合はわずか5%で、実際に相談窓口を利用するのはハードルが高いと言われています。少しでも相談するハードルを下げるために、相談を受ける側の人の情報(顔、氏名、所有資格)などを提示することが望ましいです。人に言いにくいデリケートな悩みを相談することになるので、信頼感を作るためにも不安な要素を減らし、安心して相談できる環境を作るようにしましょう。

    ②窓口担当者が適切の対応できるようにすること
    相談が来た時の対応フローやマニュアルの作成、担当者の対応についての研修を事前に行いましょう

    3.職場におけるパワハラへの事後の迅速で適切な対応

    ①事実関係のヒアリング
    相談窓口の担当者や人事部門、専門の委員会などがパワハラに被害者と加害者の双方から事実関係を確認します。

    ②被害者に対する配慮のための措置を適正に実施
    相談内容や状況に応じて、被害者に対して適正な措置を実施する必要があります。例えば、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者からの謝罪の機会の設定、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置などがあります。

    ③行為者に対する措置を適正に実施
    就業規則や、その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒、その他の措置を講じます。併せて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置も行いましょう。

    ④再発に向けた措置を講ずる

    事実確認できなかった場合も含めて、改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発したり、ハラスメント研修、講習を実施したりするなど再発防止に取り組みましょう。

    4.併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止など

    ①プライバシー保護に必要な措置を講じ、労働者に周知する
    相談者・行為者等のプライバシー保護のために必要な事項をあらかじめマニュアルに定め、相談窓口の担当者が相談を受けた際には、そのマニュアルに基づき対応するようにしましょう。また、プライバシー保護のために必要な措置を講じていることを労働者全体に周知し、安心して相談できる環境を整えましょう。

    ②相談者が不利益な扱いをされないようにすること、その旨を労働者に周知する
    相談したことや事業主による相談対応に協力したことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは、パワハラ防止法により禁止されています。就業規則、その他の職場における服務規律等を定めた文書に、不利益な取扱いをされない旨を記載し、労働者全体に周知しましょう。

    ここまでの内容については、必ず実施すべき『義務』として定められています。きちんと取り組むようにしましょう。続いて、やることが望ましい『努力義務』を説明していきます。

    ■努力義務

    5.各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備

    セクハラ、マタハラなども含め総合して相談できるような体制を整備しましょう。

    6.ハラスメントの要因を解消するための取り組み

    ハラスメントに関する社内研修や労働者に対して定期的な面談などを実施しましょう。

    7.その他の取り組み

    ハラスメントを行ってはならない旨の方針を示す際には、自社で雇用する労働者以外にも、他の事業所が雇用する労働者や求職者、個人事業主などのフリーランス、インターンシップ生、教育実習生等にも同様の方針を併せて示すようにしましょう。また、労働者や労働組合に対して、必要に応じてアンケート調査や意見交換等を実施し、ハラスメント発生状況の把握や対応の見直しを行いましょう。なお、近年は顧客からハラスメントを受ける、カスタマーハラスメント(カスハラ)も話題になっています。カスハラに関しても、相談体制の整備や被害者への配慮のための取り組み、マニュアルの作成や研修の実施等の被害防止のための取り組みを行うことが大切です。

    まとめ

    パワハラ問題は、決して他人ごとではありません。パワハラが発生すると当事者間の問題だけでなく、会社としての責任も問われてしまいます。法整備も進み、パワハラ防止法により企業にはパワハラ防止対策を講ずることが義務付けられています。本記事で解説した会社で行うべき7つの対応をしっかり行い、未然にパワハラを防止すること、パワハラ発生時に適正な対応ができるよう会社の体制を整えておきましょう。

    職場のハラスメント防止には、エリクシアの「ハラスメント研修」

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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