成否の分かれ道?!メンタルヘルス4つのケアの理想的手順とは

[シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる②~

4つのケアを成功させる「理想的手順」

企業がメンタルヘルス対策を推進するにあたり、具体的施策として重要なのは「4つのケア」です。4つのケアとは、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」で定められた「セルフケア」「ラインケア」「事業場内の産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」を意味します。

せっかく4つのケアを実施するなら効果のある施策にしたいものです。しかし、よくありがちな例としては4つの施策をバラバラに実施し、それぞれが単独、単発で終わってしまい、効果が薄くなってしまうということです。また、施策を取り入れる順番がちぐはぐになり、4つのケアに準じた体制作りがうまく進まないというケースも多く見られます。

そこで、このシリーズでは全3回に渡って、誰が、どんな方法や手順でメンタルヘルス対策に取り組むのが良いのか、具体的に解説します。4つのケアを効果的に連動させるための一例として、「認知行動変容アプローチ」に基づいたフレームワークも紹介します。4つのケアに準じた体制をしっかり整え、メンタル不調者への早期発見、早期対応、発生予防を実現していきましょう。

今回の記事では、4つのケアを連動させるための成否の分かれ道になる「4つのケアの手順」や、そこにまつわる注意点を解説します。今回の記事をお読みいただくと、パーツで見ていたメンタルヘルス対策が流れで見えてきて、何を優先すべきか分かるようになります。ぜひ、4つのケアの導入手順の参考にしてください。

[シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる~
1:大前提!職場のメンタルヘルス対策4つのケアの役割と具体例
2:成否の分かれ道?!メンタルヘルス4つのケアの理想的手順とは ←今回はこちら
3:見えていますか?!4つのケアの繋がりと全体

途切れないメンタル不調者への対応はエリクシアにお任せください
この記事でわかること(目次)
  • 4つのケアを成功させる「理想的手順」
  • 4つのケアを進める前に見ておきたい注意点
  • 4つのケアを効果的に進める手順
  • まとめ
  • メンタルヘルス対応に関する課題はエリクシアで解決!
  • すべて表示 

    4つのケアを進める前に見ておきたい注意点

    自社に必要な4つのケアが具体的に見えてくると、次は、各施策の進め方を計画する必要が出てきます。この時、どの施策をどのタイミングで動かしていくのが良いか、優先順位や手順に迷うことがあるかもしれません。ここで手順を誤ると、せっかくの施策がうまく回らず、メンタルヘルス対策を推進する中心メンバーへの負担が増大する可能性もあるため、注意が必要です。

    まずは、4つのケアを進める上での注意点を確認していきましょう。

    注意1|メンタルヘルス対策の初期施策が不十分

    4つのケアを推進していく前にまず押さえておきたいのは、「メンタルヘルス対策の初期施策に取り組めているか」、ということです。初期施策は主に3つのステップで行われます。

    ●メンタルヘルス対策の初期施策
    STEP1メンタルヘルス対策に関する方針表明
    まずは全労働者に対して、会社としてメンタルヘルス対策を推進することを表明しておく必要があります。
    STEP2:衛生委員会における調査審議
    会社が労働者の意見を聴き、実態や課題を明らかにして、メンタルヘルス対策推進の目的を定めておく必要があります。
    STEP3:心の健康づくり計画の策定
    メンタルヘルスケア実行委員会など、メンタルヘルス対策の具体的計画・実施のためのメンバーを中心に、中長期的な視点で計画を立てていきます。この段階で初めて、4つのケアに関わる具体的施策を細かく検討していきます。

    これらの初期施策は、4つのケアを実行する土台です。初期施策が不十分だと、せっかくラインケア研修等を企画しても、労働者には会社の目的が伝わらず、有意義な研修にならないといった問題が起こるかもしれません。

    初期施策については下記の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

    注意2|不調者の早期発見を真っ先に優先してしまう

    メンタルヘルス対策に着手し始めたばかりのころは、不調者が発生した時、誰がどのように対応するのか、誰に相談するべきか、事業場内スタッフなのか、事業場外スタッフが対応するのかなどの実際の対応フローが整っていない場合があります。この初期段階では、自身の不調の発見方法や、周囲の不調者の見つけ方と言ったような「不調の早期発見」にばかりフォーカスしないよう注意が必要です。

    例えば、メンタルヘルスの問題に関する社内相談窓口が定まっていないタイミングで、メンタル系疾患の解説ばかりするような研修を導入したとします。すると、労働者はメンタル系疾患の知識を得たことで、メンタル不調に対し感度が高くなり、ちょっとした心身の不調が気になるようになるでしょう。

    感度が高くなることは決して悪いことではありません。しかし、気づいた時の相談先が不明瞭だと、相談の行き場がなくなり、ますます不安が大きくなってしまうリスクがあります。

    結局、労働者は人事に相談を持ち掛けるしかなく、最終的には人事担当者の負担が増大してパンクする、といった事態になる可能性もあります。もしくは、上司に相談するものの、上司自体がどのように対処すればよいか分からず、結局見て見ぬふりになってしまうという事態もあるかもしれません。

    せっかく上がってきた労働者からの相談をムダにしてしまわないよう、事業場内で相談を受ける産業保健スタッフの余力や、助言をもらえる外部相談機関とのネットワークは先に確保することが大事です。早期発見やメンタル系疾患の知識の教育は、社内のメンタルヘルスサポート体制がある程度整った後に行う、という手順が理想であることを押さえておきましょう。

    注意3|現場の実態に合わない予防策を提供

    ストレスやメンタルヘルスケアに関する知識は多種多様です。基礎知識から応用知識、業界に合わせた知識や、その時代のトレンドもあります。その中から、自社の労働者や管理職にとって本当に役立つ知識を探し出すことは、なかなか難しいことだと言えます。特に注意なのは、現場の実態が見えていない段階で予防の話ばかりを強調することです。

    例えば、既に不調者が発生しており、忙しい中管理職が対応をしている現場に対して、メンタルヘルスケアの予防策であるストレッチを週1回取り入れたとします。メンタル不調者へのサポートや業務のリカバリーをしなければならない中で、予防策に割く時間も必要となると、忙しさが倍増したと受け取られ不満が募ってしまうかもしれません。また、せっかくの予防策も時間がないことを言い訳に参加されないことで、形骸化につながってしまうことも考えられます。

    このように、現場の課題感が見えないまま「予防の話」をしてしまうと、非現実的な理想論だと受け止められ、効果的な施策にならない場合があるため注意が必要です。裏を返せば、自分たちが感じている課題に即した取り組みだと感じられる施策が提供できれば、労働者の予防への取り組みも盛んになります。

    まずは現場の声を聞き、職場環境を分析することで、現場の実態に合った知識や情報の提供から始められるよう、手順には十分注意しましょう。

    4つのケアを効果的に進める手順

    4つのケアを効果的に進める理想的な手順は、「対応の充実→早期発見→予防」の順です。一つ一つの手順を具体的に見ていきましょう。

    手順1 対応の充実

    まず、社内産業保健スタッフを中心に、実際に相談が上がってきた時に誰がどう対応するか、サポート体制を整えておきます。4つのケアで言えば、主に「事業場内の産業保健スタッフ等によるケア」や「事業場外資源によるケア」に該当する部分です。

    相談内容、緊急度によって、誰がどう対応するのかフローを作成し、いつでも対応できるようにしておきましょう。可能であれば、事業場外支援によるケアが受けられるよう、外部ネットワークも用意できるとよいです。なお、労働者が状況や相談内容に合わせて利用しやすいよう、社内外で複数の相談の窓口を持っていることが理想ですが、難しければ1本化してもよいでしょう。

    そして、これらのサポート体制の存在が、しっかりと労働者に周知されていることも重要です。メンタルヘルスサポート体制が充実していることを労働者に伝え、いつでも利用してもらえるよう整備を進めましょう。

    手順2 早期発見

    続いて、早期発見を徹底するための施策に進みます。4つのケアで言えば、「セルフケア」「ラインケア」に該当する部分です。研修を実施して、メンタル不調のサインや、不調に合わせた対応の知識を労働者に提供していきましょう。

    特に、管理監督者に提供する「ラインケア」の内容は吟味が必要です。現場上司に任せたい役割や、社内産業保健スタッフを頼って欲しいケースなどを整理して伝えることで、手順1で整備されたサポート体制に早い段階で相談が上がってくるようになります。現場で実際に起こりそうな事例を扱いながら、いざという時に労働者自身が安心して動けるように後押ししていきましょう。

    手順3 予防

    手順1、2を行うことで、現場からの声や、実際に起こったメンタルヘルス問題の情報が集まっているため、職場の実態に即した効果的な予防策を講じていくことが可能です。この段階は4つのケア全てに該当します。

    セルフケア・ラインケア研修の内容を、対応策から予防策の知識にシフトしていったり、より効果的かつ利用しやすい事業場外資源のサービスを検討したりする等、メンタルヘルス対策を強化していくことができます。社内産業保健スタッフで定期的にミーティングを行い、予防策もより効果的なものが提供できるよう、見直していけると良いでしょう。

    「対応の充実→早期発見→予防」の手順が最適な理由

    3つの手順において、「早期発見」は、どんなサインがあったらメンタル不調を疑うのかなど、ラインケアやセルフケア教育で学ぶべき必須の知識です。ただ教育を行うことで、メンタル不調に対する感度が高まり相談件数が増加する可能性があるため、その際の受け皿を先に整えておくことが必要不可欠です。対応フローが不明瞭で相談先も不十分な段階で「早期発見」を推進してしまうと、現場も人事も混乱してしまうリスクがあります。

    また、「予防」の施策は、現場の実態に即した内容でないと、興味を持ってもらえなかった結果、現場が協力してくれなかったり、効果が得られなかったりという問題が起こりがちです。

    以上の理由から、まずは受け皿である「対応の充実」を行った後、「早期発見」の体制を整えることで現場で起こりやすい問題を見極め、優先度の高いところから「予防」策を打ち出していくという手順が大切です。

    まとめ

    今回の記事では、4つのケアを進めるにあたっての注意点や、効果的に進める手順をまとめました。4つのケアの施策がうまく機能していない場合は、本記事を参考に、注意点のチェックや手順の見直しを行ってみるとよいかもしれません。

    次回の記事は、「認知行動変容アプローチに基づいた4つのケアのフレームワーク」です。4つのケアを連動させる一例として、「認知行動変容アプローチ」に基づいたフレームワークを紹介します。前回、今回の記事と合わせてお読みください。

    [シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる~
    1:大前提!職場のメンタルヘルス対策4つのケアの役割と具体例
    2:成否の分かれ道?!メンタルヘルス4つのケアの理想的手順とは ←今回はこちら
    3:見えていますか?!4つのケアの繋がりと全体

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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