失敗しない産業医の選び方|①産業医選任の考え方と準備

はじめに―初めてでも迷わない。産業医選任の全体像と、検討を進めるためにやること

「産業医を選ばないといけなくなったけど、何から始める?」「何を基準に産業医を選べばいい?」という疑問はありませんか。

産業医の選任は常時50人以上の労働者が働く事業場で義務とされています。しかし、人事としてゼロベースで産業医選任を経験する機会は決して多くなく、“自社に合った産業医”の判断基準はつかみにくいものです。

近年は、メンタルヘルス対応や特性への配慮が必要なケース、ハラスメントに関連した相談、リモートワークの増加に伴う健康課題など、企業が抱える問題が多様化していることで、産業医に求められる役割そのものが大きく広がってきています。

まずは自社の課題を整理し、そのうえで「自社に合う産業医」を選ぶ視点が大切になります。

本シリーズでは、3回にわたって、産業医の基本知識や選任のポイント、選任の進め方を整理しました。1回目の本記事は産業医選任に向けた準備のポイントについて解説しています。ぜひ最後までお読みいただき、産業医選任の際にお役立てください。

この記事でわかること(目次)
  • はじめに―初めてでも迷わない。産業医選任の全体像と、検討を進めるためにやること
  • そもそも産業医とは?—役割・種類・選任の基本
  • 自社の困りごとを棚卸する
  • まとめ―“課題から始める”ことで迷わず選べる
  • すべて表示 

    そもそも産業医とは?—役割・種類・選任の基本

    産業医の選任をする前にまず押さえておきたいのは、産業医の役割です。産業医について知ることで、依頼できることや、関わり方などがイメージしやすくなり、選任プロセスも進めやすくなります。

    ※産業医についてすでにご存じの方は、次の章からお読みください。

    産業医が担う役割と法令で決まっていること

    産業医とは、職場で従業員が安全に、快適に仕事ができるように、専門的な立場から指導、助言する医師です。50人以上の従業員がいる※1事業場※2産業医の選任が法律で義務付けられています。

    ※1 「50人以上」とは常時使用する労働者であり、パートやアルバイト、派遣社員なども含む。
    ※2 「事業場」とは、一定の場所で継続的に業務が行われる単位を指し、同じ会社であっても支店や店舗ごとに1事業場として扱われます。

    産業医の主な業務内容は以下です。

    産業医の種類と選任人数の基準

    産業医の選任人数や種類は、事業場の労働者数や業種で定められています。(労働安全衛生法および労働安全衛生規則)。

    ※一定の有害業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業所は専属産業医の選任が必要です。
    ※対象となる労働者数には、正社員だけでなく契約社員や派遣社員、パート、アルバイトも含まれます。

    産業医は嘱託産業医と専属産業医があります。嘱託産業医と専属産業医の主な違いは勤務形態にあります。

    嘱託産業医は、非常勤となり、常時事業場にはいません。訪問頻度は、月1回から数回で、1時間~2時間程度事業場に訪問します。嘱託産業医には、産業医のみで活動している医師もいれば、病院勤務や研究職と兼務している医師もいます。

    専属産業医は常勤として事業場に勤務する医師で、週3~5日、1日3時間以上など一定時間勤務する形が一般的です。

     

    次章では、これら基本知識を踏まえつつ、最初のつまずきやすいポイントとして、「実際に産業医を選任するときはどんな考え方で進めればいいのか」について解説していきます。

    産業医とは何か、もっと基礎的な内容について知りたい方は以下のコラムで詳しく解説しています。
    産業医とは?はじめての選任 探し方、相場、届出の基本

    「記事を全文読みきりたいけど、時間がない!」という方必見

    「産業医選びの新常識ガイド」

    本資料では、産業医の選び方を具体例豊富に説明しつつ、表や図などで短時間でもわかりやすいように全13ページでまとめました。
    また、自社の課題や体制に合う産業医タイプをもっと選びやすいように「フローチャート」を掲載しています。
    ぜひチェックしてみてください。
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    自社に合った産業医とは?—迷いを減らす考え方

    産業医を選任するときは、紹介会社に問合せをし、候補者をリストアップ、比較して選ぶという流れが一般的です。本章では、自社に合った産業医を選任するためのポイントと、選任をスムーズに進めるための考え方を解説していきます。

    産業医選任でなぜ迷うのか

    産業医を選任しようと思ったとき、「誰が合うのか」「どう決めればいいのか」と迷う人事担当者は少なくありません。この迷いは、情報収集が足りないからというより、産業医という役割の特性上“迷いやすい条件”が揃っているために起こります。

    前の章で確認した通り、産業医が行う業務は幅があり、「何をどこまでお願いできるのか」がイメージしづらいことがあります。

    また、「自社の課題が明確になっていない」場合も、迷いの要因になります。困りごとが曖昧なままだと判断材料が不足し、「何となく良さそう」といった印象で決めやすく、選任後にズレが生まれることがあります。そもそも産業医は、制度対応の文脈では「選任」そのものが目的として捉えられやすく、困りごとを解決するために“どんな関わり方をしてもらうか”まで結びつけて考える機会が多くありません。

    候補者探しの前に「自社の困りごと」と「産業医に期待する役割」を整理しておくことが、迷いを減らす近道になります。

    迷わないための選任プロセス

    産業医選任で迷いを減らすには、「選ぶ」より前に準備を整えることが重要になります。ここでは、比較の前に行いたい整理事項を解説します。

    ・自社の困りごとを棚卸する
    ・産業医に求める役割を言語化する
    ・関係者間で期待値をそろえる
    ・選任後の運用を簡単に描く

    迷わないための第一歩は、候補者探しに入る前に、自社の困りごとを棚卸しすることです。棚卸と言っても、ここで求められるのは厳密な分析ではなく、現場で起きていることや不安を言語化することです。たとえば、メンタル不調への対応が増えている、復職対応に迷うことがある、長時間労働が続いている、管理職が一人で判断を抱え込みやすい、といった形で構いません。困りごとが見えてくるだけで、産業医に相談したいテーマが自然と整理されます。

    次に、その困りごとに対して産業医に何を期待したいのか役割を言語化します。医学的な判断を中心にお願いしたいのか、面談や意見書を通じて就業配慮の判断を支えてほしいのか、再発防止や職場改善に向けた助言もほしいのか。期待する役割を言語化しておくと、選任後に「思っていたのと違った」「うまく相談できない」といったズレを減らすことにつながります。

    最後に、関係者間で基本的な期待値を揃え、運用のイメージを描きます

    人事・総務だけでなく、経営や現場の上長も含めて「どのタイミングでどこまで相談するのか」「誰が窓口になるのか」「情報共有はどの範囲で行うのか」などを共有しておくと、選任後の連携がスムーズになります。完璧なルールを作る必要はありませんが、最低限の前提を揃えておくことで、産業医とのやり取りが噛み合いやすくなります。

    では早速、次章で困りごとの棚卸しを具体的に進める方法を紹介します。

    自社の困りごとを棚卸する

    前の章でお話しした通り、産業医をどう選ぶかを考えるには、まず、「自社の困りごとを棚卸すること(課題整理)」が近道です。では、具体的にどのようなやり方で棚卸をすればよいのでしょうか。
    早速やり方を見ていきましょう。

    課題整理のやり方―“求める関わり方”が自然に見えてくる

    課題整理は産業医との関わり方を見出すための重要プロセスです。とはいえ、細かい分析は必要なく、気になることをメモする程度のシンプルな整理で十分です。具体的には以下のようなサインから課題をまとめていきましょう。

    🔶数字から見えるサイン
    ・ストレスチェックで高ストレス者が増えている
    ・健康診断で有所見者数が増えてきた
    ・休職・復職・離職の件数が肌感覚として増えてきたように感じる
    🔶現場からの声や組織によるサイン
    ・メンタル不調の相談が以前よりも増えている
    ・管理職から「部下の不調に対して判断に迷う場面が多い」等の声が増えている
    ・職務上の特性理解や配慮が必要なケースが多い
    ・職場ごとの対応にばらつきがある
    ・拠点・部署が多く、情報が分散しやすい
    🔶人事として感じているサイン
    ・「もっと早く人事に相談してほしかった」といったような問題が繰り返し発生している
    ・会社対応に悩む事案が増えている
    ・相談対応が属人的になっている

    このようなサインを拾っていくと自社でどんな支援が必要か見えてきます。

    例えば、以下のような内容です。

    メンタル不調の相談が多いなら、面談や復職支援に強い産業医
    対応判断に迷いが多いなら、具体的な助言をしてくれる産業医
    拠点が多く対応にバラつきがあるなら、体制設計が得意な産業医

    支援の例については、次回のコラムの「産業医に求める役割を言語化する」のパートでも詳しく説明します。

    まとめ―“課題から始める”ことで迷わず選べる

    ここまで、産業医の基本から、選任の準備段階として、自社の健康課題・組織の状況を整理するステップまでを見てきました。改めて大切なのは、「どの先生が良いか」だけで判断するのではなく、自社の課題に合った支援をどのように受けたいのかを先に描くことです。

    数値、現場の声、人事として感じているサインを振り返ると、「どんな場面で迷いが生じているのか」「どんな関わり方が欲しいのか」が自然に見えてきます。この見えてきた課題こそが、産業医選任の際の比較軸になります。

    産業医の選任は法律で義務付けられていますが、同時に、従業員が安心して働ける職場づくりの土台を整える大切なプロセスでもあります。課題を丁寧に見つめるところから始めることで、自社に合った産業医をより選びやすくなります。

    次回のコラムでは、整理した課題をもとに、産業医のタイプの違いや、候補の絞り込み方を具体的に解説していきます。自社に合う産業医像を形にするヒントになれば幸いです。

    次のコラムが出る前に内容を知りたい方へ

    「産業医選びの新常識ガイド」

    本資料では、産業医の選び方を具体例豊富に説明しつつ、表や図などで短時間でもわかりやすいように全13ページでまとめました。
    また、自社の課題や体制に合う産業医タイプをもっと選びやすいように「フローチャート」を掲載しています。
    ぜひチェックしてみてください。
    ダウンロードはこちら

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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